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政治

新たに選挙に行った人の多くは参政党に投票したのでは?

2025年7月31日
日本政治選挙参政党

7月20日に行われた参院選の最大の特徴は、参政党が大きく躍進したことでした。今年春まで支持率 1, 2 % を推移していた党が、6月中旬から突如、各社の世論調査で 5 % 前後の支持率を記録するように。最終的に742万人 (12.5%) が比例代表で参政党に投票したのは皆さんの知るとおりです。

その衝撃に隠れてあまり注目されていないように感じますが、 もう一つの大きな特徴は、 投票率が大きく伸びた ことです。参院選はふつう、衆院選よりも投票率が低いといわれています。それが今回は、58.51% と、前回の参院選 (52.05%) を大きく超えるどころか、昨年の衆院選 (53.85%) をも上回り、国政選挙では2012年以来、参議院議員選挙に限っては過去30年で最大規模の投票率を記録したのです。具体的には、昨年10月の衆院選よりも約468万人多くの人が投票所に向かいました。

2004年から2025年までの衆参の投票率を示した図

そして、今回の投票者数の増加には、若者が大きく寄与しました。 朝日新聞は選挙期間中の世論調査で投票意向を尋ね、若年層の投票意向が過去に比べ顕著に高いことを明らかにし、さらに「投票率は50%台後半に上昇することが見込まれる」と報じて、見事に的中させました (朝日新聞, 7月14日; 下図は記事の画像に筆者が矢印を加えたもの)。実際、総務省は抽出調査により、18, 19 歳の投票率が 41.74% と、前回の参院選の 35.42% を大きく上回ったことを発表しています (共同通信, 7月25日)。

朝日新聞の記事から引用した、「参院選の投票に『必ず行く』と答えた割合のグラフ

それでは、9ヶ月前には選挙に行かなかったのに今回は投票に行ったという468万人以上の有権者は、どこに投票したのでしょうか? 私は、これらの 新たに選挙に行った人たちのほとんどが参政党に投票したのではないか という仮説を立て、1860の市区町村の開票結果を検証しました。

各自治体での、昨年の衆院選からの増加と各政党の得票率の増加の関係

上のグラフの各点は各市区町村 (各自治体 + 政令都市の各行政区) を表しており、横軸に「今回の投票者数 - 昨年の衆院選の投票者数」、縦軸に各政党の「今回の得票数 - 昨年の衆院選での得票数」をとっています。 参政党のグラフに y = x の補助線を加えています。もし前回の選挙で投票に行った人がみな同じ投票行動をとり、普段選挙に行かないが今回は選挙に行ったという人がみな参政党に投票したとすれば、参政党のグラフの各点は y = x の直線に、ほかの政党のグラフの各点は y = 0 の直線に従って分布します。図中の ρ は、x と y の Spearman の順位相関係数です。

実際に、参政党は y = x の直線に沿うか、少し上に分布しており、既存政党へ投票してきた人たちに加え、今回の投票者数の増加の多くを取り込んだことが示唆されています。自由民主党や立憲民主党は票をほぼ一定か微妙に減らしており、既存政党へ投票してきた人の若干の流出があったことが示唆されています。国民民主党は票を微妙に増やしており、今回新たに選挙に行った人たちの一部をさらに取り込んだ可能性があります。とはいえ、明らかに参政党について傾向が顕著です。

また、参政党の得票の特徴として、地域ごとの得票率の差が小さいことも挙げられます。自由民主党や立憲民主党がリアル地盤を持ち、極端に強い地域・弱い地域を持つのに対し、参政党は今回の比例上位4党のなかでもっとも得票率の偏りが少ない党です。これは、参政党が若年層から最も多く得票したこと、若年層の投票率が大きく伸びたこと、および若年層の多くが SNS を重視していること (朝日新聞, 7月21日など) を考えると、納得のいく結果かもしれません。

参政党は他の政党と比べて得票率の地域差が小さい

もちろん、昨年の衆院選のあと、選挙結果によるアナウンスメント効果 (国民民主党の躍進による支持率増) や、執行部の変化 (日本維新の会)、内閣の動き (自由民主党・公明党)、および政治状況の変化などで、普段投票に行っているおよそ5000万人のなかでも、この10ヶ月で多少の支持の変化は起こったでしょう。しかし、「普段投票に行っていないが今回は投票に行った」という468万人以上の行動は、普段投票に行く人たちの行動とは異なる特徴があることは容易に考えられます。いずれにせよ、今回は投票率の増加が顕著であり、各政党の得票を分析するにあたっては得票率だけでなく得票数への着目も重要であるということは述べておきたいです。

本仮説の検証はこれだけでは不十分で、交絡因子の可能な限りの除去や、個別の有権者に焦点を当てた調査が不可欠です。しかし、他の分析からもこの傾向は示唆されています。たとえば、田中辰雄先生はさっそくアンケート調査を行い、「かつての自民党支持者と、これまで投票に行かなかった政治的無関心層の二つが参政党の支持者調達源です」と仰っています (Tatsuo Tanaka, 2025)。

近年さまざまな小政党が乱立していますが、参政党はそのなかでも主張の極端さが顕著であることから、今回の参政党の躍進を単に「日本で急速に排外主義・陰謀論支持が広がった」と解釈するような言説も多くみられます。しかし、多くの若年層が投票に向かい参政党に投票したという事実は、このような解釈では説明しづらいでしょう (さすがに、それで700万票も獲得するわけがありません)。「今まで投票に行かなかった人たち」に焦点を当て、何が彼ら・彼女らを投票に向かわせたのか、慎重な議論が必要だと筆者は考えます。